北アルプス・立山~槍ヶ岳スキーツアー

1998年4月29日~5月5日

パーティー:L私、家内

<はじめに>

 ヨーロッバアルプスのシャモニ~ツェルマット間を4泊5日で走破するクラシカルなスキーツアーコースがあり「オートルート(高い道)」と呼ばれている。今回のコースは「和製オートルート」として有名なコースである。

<4月29日 ガス一時小雨>

 つぼ足にて一の越へ。トラバース気味に滑って竜王東尾根末端付近を通過し(標高差200mの滑り)、つぼ足で鬼岳東肩(道標あり)へ登りつく。続くトラバースは約40°あり、アイゼンで行きかけるが、雪が腐っているので怖くなりスキーで斜滑降する。派生尾根を下りかけて引き返し、つぼ足でトラバース後、約40°の雪壁直登を経て、獅子岳山頂。

 左斜面を先行シュプールにミスリードされ御山谷への派生尾根を1kmほど滑ってしまう。つぼ足で登り返し、尾根分岐直前の左急斜面にかすかな先行シュプールあれど(翌朝の遠望で、ザラ峠に滑り込めることが判明。但し、若干のはいまつ漕ぎが必要。滑れば標高差300m。)、ミスリードの恐れから夏道をザラ峠へ下る。夏道を登り、五色が原台地直前で暗くなり幕営。

 五里霧中、かすかなシュプールだけがたよりの、前途多難をおもわせる1日であった。夜中に、疲労による消化不良のためか気分が悪くなりしばし苦しんだ。

<4月30日 晴れ>

 広大な五色ケ原雪原の2軒の小屋の右側を通過したのち、

アイゼンで斜登行し鳶山ピークの左肩をトラバースする。

次の小ピークは左側を巻き、左急斜面に滑落しないように注意して、雪稜を右側ハイマツ帯に沿ってくだり、途中からつぼ足で夏道を交えて下り(ハイマツトンネルの通過のためスキーをザックから外すところもある)、100m程手前から越中沢乗越に滑り込む。シールをつけて、ジグザグに行くと、夏道が出たので、右方の雪田へ抜け、左上し尾根にでて越中沢岳山頂へ。

 雪が腐っているので、つぼ足で、左急斜面に寄りすぎて滑落しないよう注意して雪稜を大きく下り、小ピークへと急登。次の岩とハイマツ混じりの急降下では、スキー板のテールが岩につかえて体が前に押し出されそうになったり(だから、段差のところでは、後ろ向きに降りざるを得ない)、スキー板の先がハイマツにからまってバランスを崩したりしないよう気をつかい、精神的に消耗すること甚だしい。途中の小岩峰は、右が切れ落ちているので、左より巻くが、黒部上の廊下を見下ろし、約30°~40°の雪面トラバースが断続し、気が抜けない。本山行の最悪場といえ、技量や雪の状態によっては、ロープが必要だ。コルより雪壁の急登でスゴの頭を越え、雪と夏道のミックスでようやくスゴ乗越に降り立つ。

 スゴ小屋(閉まっていた)にてテレマーカー2人組を追い越し、間山の肩よりシールをつけ、間山山頂で力尽きて幕営。

<5月1日 晴れ時々ガス>

 アイゼンでスタートし(雪が意外と軟らかでシールのほうがよかったかも)、途中でつぼ足にする。長いが快適な稜線歩きで薬師岳山頂へ。

 あいにくと途中からガスに包まれてしまった。稜線を50mほど滑るが、雪が切れ、夏道を行く。避難小屋跡より少し下った左の雪田よりスタート。先行シュプールを見失わないよう、また左の急斜面に近づかないよう滑る。数人のパーティーに出会ったのち、薬師小屋よりさらに滑り、右前方のハイマツの切り開きに滑り込むと、3人パーティーに出会う。切り開きが左折して、大斜面に飛び出すと、視界が開けて、北の俣方面が見えてきた。あとは、まったく快適にターンを繰り返し、

薬師峠へ(標高差500mの滑り)、シールをつけて太郎小屋へ、カップヌードルを注文し、今晩の酒を購入する。

 青空のもと、雄大な斜面をシール登高で北の俣岳へ。再びガスに包まれて、かすかなシュプールとコンパスと高度計を頼りに、斜滑降で中俣乗越へ(標高差200mの滑り)。再びガスが晴れ、強風にあおられながら夏道を黒部五郎岳に向かって登る(途中の小ピークの下りは少し滑れる)。最上部で左の一枚バーンを直上ののち、スキーで肩へトラバースする。再び、ガスに包まれてしまい、スキーを小脇に抱えて、夏道をカール下降点へ急ぐ。

 小ピーク手前のコルが下降点らしい。覗き込むと恐ろしく急(約40°)なうえに、ガスが強く吹き上げてくる。しばしためらったが、日も暮れかかっているし、この強風の稜線での幕営など論外だ。幸いかすかにシュプールの痕跡もみえたので、何とか黒部五郎小屋に辿り着きたい一心でスタートする(標高差400mの滑り)。右手のハイマツに向かって斜滑降し、一度キックターンすると、腹がすわってきて、安全第一のシュテムターンでぐんぐん高度を下げ、シュプールを辿って斜滑降を続けるが、とうとう真っ暗になり、ヘッドランプでもシュプールがわからないようになってしまった。もはやこれまで、近くの小潅木の根元を造成してテラスをつくり幕営する。疲れ果てて飯ものどを通らず、紅茶さえも吐いてしまった。

<5月2日 ガス時々雨、夕方より暴風雨>

 ラジオ天気予報にて強い低気圧の接近を知り、これは大変だと撤収。再び斜滑降すると、幸いにも再び現れたシュプールに導かれ、ガスの切れ間に小屋を見出したときはうれしかった。雨は止んでいたが、稜線の強風を予想して停滞とした。昼頃、男女2人パーティーが五郎岳を越えてやってきた。干し物をしたり、2人組と山の話をしたり、昼寝をしたりして過ごす。

<5月3日 早朝まで暴風雨、雨のちガス>

 夜中は、台風並みの暴風雨が小屋を揺るがせた(本当に揺れた)。午後より、雨が止み、晴れ間が見えてきた。双六小屋まで、歩を進めようかとも思ったが、快適な小屋に未練が生じた。五郎岳寄りの斜面でひと滑りする。

<5月4日 晴れ>

 今日こそは槍を越えんと、暗い内から出発。小屋横より樹木のまばらな一枚バーンをやや右寄りにアイゼンでジグザグ登行する。やがて、夜が明け、登りついた稜線のハイマツ帯を夏道で抜け、緩やかな尾根づたいに蓮華谷側の雪面を小ピークまで行く。

アイゼンを外し、時に左側の雪稜にでるものの、ほぼ夏道を行く。三俣蓮華岳山頂よりほぼ夏道つたいに次のピークまで進み、一旦下って(左の急な雪渓を巻き気味に滑ることも可能)、数人のパーティーと出会い、双六岳山頂へ。

 ここまで来るとさすがに人が多い。オレンジ色のパラグライダーも3つ浮かんでいる。高瀬川側へひと滑りし、ハイマツ帯を回り込んで槍目指して斜滑降、

夏道尾根の向こう側の雪渓に入り、一気に小屋裏まで滑り込む(標高差300mの滑り)。

 小屋でポカリを飲んで一服したのち、夏道を樅沢岳へ。下りは両側が約40°の見事なナイフリッジに少し緊張する。左の雪面や右のハイマツ帯の夏道を延々と進む。すれ違ったのは、たった1人のみ。やがて緊張させられる岩稜となり(右斜面に雪がつくとロープが必要だ)、千丈乗越を過ぎ、飛騨沢の雪のないガラ場登りにあえぎ、肩の小屋へ。

 振り返れば、はるかかなたに立山がかすんでいる。よくぞ、ここまで来れたものだ。 大勢の登山者でにぎわう小屋でカップヌードルとジュースで一息いれる。いそいそと滑降準備をしていると、槍沢からスキーをひきずって登ってきたおばさんが話し掛けてきた。大喰岳カールを滑ってきたそうで、昔、立山からも縦走したとのこと。

 フィナーレの槍沢滑降は、雨にならされたのかデブリも全くなく、軽快にパラレルターンが決まり、


標高2100mあたりで終了(標高差900mの滑り)。例年は、槍沢ロッジまで滑れるそうだ。槍沢ロッジは幕営禁止のため、ずっと手前の赤沢岩小屋で幕営。よってビールにありつけず(行っても売り切れだったそうで、肩の小屋で買っておくべきだった)。

<5月5日 晴れ>

 のんびり上高地まで歩く。バスの切符と整理券を購入してから、対岸の上高地温泉ホテルで7日間の垢を落とし、私は生ビール、家内はコーヒーとケーキで、霞沢岳を眺めながら、喫茶室のソファーでしばしくつろいだ。

<おわりに>

・雪山技術に自信のない人は、薬師岳~双六小屋間に留めておいたほうが、無難だし、楽しめると思う。剣立山や槍穂高の喧燥がうそのようで、自分達だけの山が楽しめる。
・ザック重量は、板、ストック、ピッケル、水を除いて、私11.5kg、家内10kg。
・食料は、朝夕食4日分、行動食5日分。朝夕食が足りたのは、疲れきって夕食のど通らずの日があったため。
・3泊4日で完走するには、小屋泊+徹底した軽量化が必要でしょう。幕営だとやはり5日は欲しい。
・ピッケルは持参したが使用せず。ロープは軽量化のため思い切って省略。ボンベは2日に1個くらい。
・ 上高地温泉ホテル入浴は7.00~9.00、12.30~?だが、12.10より入れた。

<コースタイム>

4月29日
室堂9.50~10.55一の越11.20~12.20鬼岳東肩12.30~14.25獅子岳~17.05ザラ峠17.15~17.25テン場
4月30日
5.40~6.05五色小屋~6.25鳶岳北コル6.45~越中沢乗越8.35~9.45越中沢岳10.20~コル11.30~12.45スゴ乗越13.05~14.00スゴ小屋14.10~15.05間山肩15.20~16.30間山

5月1日
5.15~7.40北薬師~8.50薬師9.10~10.00薬師小屋10.15~10.45薬師峠10.55~11.25太郎小屋12.00~14.30北の俣岳14.55~中俣乗越15.40~五郎肩18.10~19.00テン場

5月4日
五郎小屋4.20~5.25P2661手前コル~6.50三俣蓮華岳7.05~8.30双六岳~8.45双六小屋9.10~10.20樅沢岳南コル~11.45三角点南コル~千丈乗越13.30~15.10槍肩15.40~16.302100m付近~17.00赤沢岩小屋テン場

5月5日
5.30~6.20二の俣~7.35横尾~11.00頃上高地


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